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【 「イスラム国」の指導者バグダーディ殺害 】Sorry, no English!

2019/10/29

IS「イスラム国」の指導者バグダーディが殺害されたニュースは衝撃的だった。
トランプが、「昨夜、特殊作戦により、アメリカは世界で最も凶悪なテロの指導者に『正義の審判』を下した」と発表した。

27日深夜、米軍の特殊部隊を乗せた8機のヘリがイラクを飛び立ち、ロシア軍の支配地域を低空飛行し、シリア北西部イドリブへ向かった。
アメリカは、飛行予定はロシアに伝えたが、目的は伝えなかった。

潜伏先では建物を爆破し、 IS戦闘員を殺害しながら奥へ進み、バグダーディを行き止まりのトンネルに追い詰めた。彼はベストの爆薬で自爆。3人の子供たちも一緒だった。他の子供たちは別室で保護され、死体は DNA鑑定により、本人と確認された。

Islamic State Group/REUTERS

米軍が軍用犬を使ったのには理由がある。イスラム教徒の多くは犬を恐れる。
米軍は約2週間前には、潜伏先を把握していたが、タイミングは慎重に選ばれた。情報はバグダーディの側近の妻から引き出されていた。

ISの台頭が懸念される中、米軍はシリア北部からの撤収を断行し、トルコの侵攻を招いた。クルド人勢力を裏切ったという非難と、 ISの台頭を勢いづかせるという非難がトランプに集中していた。
今回の作戦が今、行われたことに、この非難をかわす狙いがあったことは確かだ。

しかし、2016年の大統領選でのトランプの国民への公約は、「ISは許さない」「中東地域への米軍はできるだけ速やかに撤収させる」というものだった。
IS のシリア、イラクでの台頭はすでに以前から確認されており、又、フィリピンやスリランカで、ISの思想に感化された凄惨な爆破テロが広がっていた。

バグダーディ殺害は、テロとの戦いにおける大きな一歩である。少なくともシリアで進む IS台頭のスピードは大幅に遅れるだろう。米軍はバグダーディの後を継ぐとみられる数人の行動をすでに監視しているとした。

バリシャ村近くの破壊された家(AP/AFLO)

トルコのシリア侵攻がもたらしたクルド人勢力への危険も、今の所、回避されている。
ペンス副大統領とポンペオ国務長官がトルコに乗り込み、クルド人勢力がいわゆる「安全地帯」から退避するため「5日間の停戦」をエルドアン大統領に飲ませた。

米軍の撤収後はロシアが、米軍基地に入り、5日間の期限が切れる直前に行われたプーチンとの会談で、「ロシア・トルコ軍の共同パトロール」を行うとして、トルコによるクルド人勢力への実際の攻撃は、事実上牽制されている。

最初トルコが主張していた、国境から32キロの「安全地帯」からクルド人の武装勢力は撤退するとしているが、実際にロシアが提案しているのは10キロの地帯での共同パトロールであるから、トルコの思惑は現在のところ、かなり押さえ込まれていることになる。
エルドアンとしては大いに不満だろう。

今後のシリアの行方に大きな影響力を持つのはロシアとなったが、シリア国民が本当に必要としている「復興」のための資金は、ロシアもイランもトルコも持っていない。西側の国を巻き込まない限りシリアの復興は無理だ。

22日、シリア軍の兵士たちと話すアサド大統領(中央右)。大統領府のフェイスブックから=シリア北西部イドリブ県(AP=共同)

シリアの将来には関与しないとしたトランプの決断は何を意味するのか。

シェールガスやシールオイルが出てきた時点で、アメリカにとっての中東の重要性は激減している。
国民の中に「なぜ、遠い中東の地でアメリカの青年の血が流されなくてはならないのか?」という疑問の声が起こってきたのは当然の流れだった。

今回、トランプ大統領のシリア北部からの米軍撤収は多くの理想主義的人々から非難を浴びた。
「IS掃討で手を組んで、犠牲を払ってきたクルド人を見捨てるのか?」
「今後は、どの同盟国もアメリカを信用しないだろう。アメリカの国益をも損なった」と。

しかし、それは、本当にそれほどアメリカの国益を傷つけるものだったのか?

先に触れたようにトランプの行動は、彼の中で一貫している。

クルド人にはクルド人なりの思惑があり、有志連合と協力した。イラク北部のようにシリア北部にも自治領を得るためだった。
実際、コバニでの戦闘ではクルド人の必死の抵抗がなければ有志連合は ISをコバニから追い出すことはできなかった。その戦いぶりは本当に見事だった。

トルコから攻撃を受け、行き場を失ったクルド人(写真:ロイター/アフロ)

現在でも、アメリカは、資金面でも、武器供給面でもクルド人勢力を支援している。
非難されたのは、トルコ国境にいた米軍兵士を、トルコとの戦闘から引き離すため南下させたという事だけだ。

私はクルド人の功績の大きさに心から感動したし、今も「裏切られたクルド人」に共感を覚える。
彼らの歴史を思う時、その悲哀に悲しみを覚えざるを得ない。
しかし、トルコが国内のクルド人 PKKのテロを現在も恐れなければならない理由は、2015年、エルドアン大統領自らが招いたものだという事実を忘れてはならない。

私はろることクルド人が2015年に「停戦」合意に至るプロセスを取材していた。本当に後、一歩のところまで、対話は進んでいたのだ。
「エルドアンのトルコ」に詳細は書いた。気になる方は、ぜひ、本を読んでほしい。

トルコの2015年のIS掃討参戦自体、クルド人への攻撃を西側に認めさせる方便だったという見方すらできる。仏大統領もそう非難した。(「エルドアンのトルコ」から)
つまり、トルコの「クルド人勢力掃討の決断」は2015年にはすでになされていたとすら言えるのだ。

トルコのイスタンブールで記者会見するエルドアン大統領=18日(ゲッティ=共同)

また、トランプが取った行動は、「アメリカの国益」を彼のやり方で最大限に守ったものだとも思う。
すでに「アメリカには世界の警察官を務める余裕はない。各国は自分で自国を守るべきだ」とする彼の主張が、リベラルな米国マス・メディアや民主党の集中砲火を浴びていても、実は多くの国民の気持ちを代弁していると思うからだ。

今後、ロシアとトルコの間で、どういう風にシリアの将来が決められるか、イランはどう動くのかは、まだ見通せない。様々な国の思惑が絡み、これからもスムーズにはいかないだろう。

ISの台頭も、バグダーディ殺害でスピードが遅くなったとしても避けることはできない。
しかも彼らの思想はすでに、世界中に伝播している。

しかし「それは彼らの問題だ。アメリカの問題では無い。今後 ISの台頭に関してはトルコが責任を持って処理するべきだ」とトランプは発言している。

世界全体の状況を見るとき、今回トランプのとった行動の是非は、短視眼的に、単純に非難されるべきものではないという気がする。
彼の判断の是非は、さらに時間が経ってから歴史が判断することになるのだと私は思っている。

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